澤俳句会web

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10月号/小澤實十五句

  • 合 歓 花 盛 り

    どの島も合歓花盛り隠岐に来たり

    鳥居くぐれる島人の礼合歓の花

    杉倒木の青苔包み沢に渡し

    滝の水礫降りなり見上ぐるのみ

    滝水の礫降りをばとこしなへ

    滝水のひとついはほをえぐりたり

    雄滝の水雌滝の水とたぎちあふ

  • 滝水の疾く流るるや魚のかげ

    滝しぶき小野篁浴びゐしか

    ででむしの殻つまめば大や神の森

    はないかだやまみちなべて濡れてをり

    テキサスゲート入れば牧場や青嵐

    青嵐みさきの馬の草食める

    強風に夏草食むや黒牛は

    夏霧はしる海より摩天崖上へと

10月号/澤四十句/小澤實選

  • ゲームコントローラーにドローン操る兵士汗
    江藤鳥歩
    鉄階段不協和音や夕立打つ
    仲 白良
    サングラスしてロック座のかぶりつき
    赤岩 覺
    芋虫を踏みしその夜の寝汗臭し
    川口正博
    水蠆飼ひぬバケツに小枝一本立て
    石田秀子
    とぎ汁に浮かし穀象流すなり
    森永一正
    ビール供ふ修詠柔順信女の順子に
    結城あき
    首里城地下に司令部壕や慰霊の日
    周藤迪之相
    砂トンネル通し触れあふ手や南風
    長谷川照子
    桜島に風向きをみる秋暑し
    新井 寛
    二十五年物洗濯機なり爆発夏
    蔵田かをり
    熱帯夜鼾の夫の鼻つまむ
    相澤照子
    王子のキスに目覚め吾は姫昼寝覚
    牧原奈緒美
    夏葱の細きうつろや刻みをり
    遠藤ちひろ
    認知機能検査過去問ネットに夏
    戸田典々
    濛濛として赤潮の打ち寄する
    福原桂子
    二十世紀の端に「澤」生れ花の雲
    森下秋露
    へうたんスピーカーよりジミークリフや海の家
    オオタケシゲヲ
    新麦の挽きたて饂飩香のゆたか
    高野鈴子
    警官二十人署を出で来たり後祭
    中山あい
  • 網戸両面挟み拭きなり水かけつつ
    佐藤涼子
    林間学校ベッドメイキングも習ふ
    望月とし江
    「クーラー欲し」啼く鳥のをり家に来よ
    中田富子
    飛込むや影のみ進む波もなく
    新村秀人
    夏草に波の端濁りながら来る
    南 幸佑
    籐椅子に桂信子のページ繰る
    布田恭子
    蔦覆うボクシングジム窓全開
    馬越洋平
    アロハ着て楽日の土俵溜まりかな
    星野れい子
    バラックの隣バラックカンナ咲く
    鳳 佳子
    秋風や息吐いてのる体重計
    清水ましろ
    草取の姉のイアホンよりマンボ
    青沼まみ
    暑き日や交差点より水噴きぬ
    新澤 岳
    だんご虫転がり逃げや草毟り
    中山雅弘
    天狗茄子天狗の鼻を捥いだ形
    天谷信子
    八十年経ても新たな死者名沖縄忌
    吉田邦幸
    梅漬ける妻やリカーの霧に酔ふ
    生井敏夫
    夕立来よ風神雷神連れて来よ
    福田鉄馬
    冷凍庫にジョッキを二つ友を待つ
    江上久美子
    千人針縫ひたる母よ終戦日
    杉野正恵
    子に送るあなご大量焼いて干し
    谷川博子

10月号/選後独言/小澤實・現代の戦火想望俳句

  • ゲームコントローラーにドローン操る兵士汗
    江藤鳥歩

    ゲームコントローラーを用いてドローンを操っている兵士が、汗をかいている。
    ウクライナへのロシアの侵攻以後、ドローンが戦場において重要な兵器になっているということは知っていた。しかし、その操縦にゲームコントローラーが用いられているということは知らなかった。ウクライナではドローンの操縦にたしかにゲームコントローラーが使われているようだ。ロシアに兵器への転用目的で、西側からゲーム機が輸出されたり、その輸出が禁止されたりもしているようだ。玩具がそのまま兵器になるという悪夢が、この世界では起きていることを掲出句に教わった。
    ウクライナの戦場を思っての、現代の戦火想望俳句である。兵士の汗は暑さゆえばかりではなく、戦況がかんばしくなく、生命の危険も覚えているだろうことも感じさせている。そして、この句がはるかな国のできごとでは終わらなそうであるという危機感をぼくたちも持ちつつある。

  • 鉄階段不協和音や夕立打つ
    仲 白良

    鉄でできた階段が不協和音を立てている、夕立の激しい降りが階段を打ちつけているのだ。
    急に降り出した夕立が奏でる強く不思議な音の連なりを、濡れない室内にいて、しばらく楽しむのもいい。
    能楽師の仲さんが、能関係以外の秀句を見せてくれたことに驚いたが、掲出句に能の囃子が突然始まり、しばらく続く感じとも似ているとも思い出した。

  • サングラスしてロック座のかぶりつき
    赤岩 覺

    ロック座は、東京浅草にあるストリップ劇場。かぶりつきは、最前列の客席。かぶりつくように見られる席である。
    サングラスをかけて、ロック座の最前列の席にいる。
    サングラスは夏の強い日差しや紫外線を避けるために色のついたレンズを入れた眼鏡である。野外の季語であることが本意となろう。ここ劇場内でかけているのは、照明の強い光を避けて、舞台をよく見るためなのか。それとも、自分の顔を隠すためなのか。

  • 桜島に風向きをみる秋暑し
    新井 寛

    桜島は、鹿児島市街地の対岸にある火山。火山活動を続けていて、噴煙を上げている。その噴煙によって、風向きを知ることができるのである。
    桜島の噴煙の傾く向きによって、風向きを見ている、鹿児島は秋暑し、である。
    「桜島に風向きをみる」主体は鹿児島市街地に滞在していて、錦江湾越しに桜島を見ている。句中に風が吹いていることと、「句の表から噴煙」が隠されていることで、「秋暑し」ではあるが、たしかな涼気を感じる。

  • 王子のキスに目覚め吾は姫昼寝覚
    牧原奈緒美

    王子のキスによって目覚めたわたしは姫である、このような昼寝から覚めた。
    昼寝覚の句は、夢とは大きく違う現実が詠まれることが多いが、ここでは夢の終わり、目覚める瞬間が詠まれている。一句のなかに「目覚め」と「昼寝覚」があって、重複しているように見えるが、そうではない。「王子のキスに目覚め」るのは、夢のなかの夢から覚めている。「吾は姫」までは新たな夢のなかにいるのである。昼寝覚はその姫だった夢からさめていることになる。
    夢の内容は、ヨーロッパの古い童話「眠れる森の美女」やグリム童話「白雪姫」からの引用であるが、俳句に詠まれた夢としては、まことに斬新。

  • 夏葱の細きうつろや刻みをり
    遠藤ちひろ

    夏葱の細い空洞を感じつつ、刻んでいる。
    「細きうつろや」で切るのが、いい。夏葱の小束を刻みつつ、それが「細きうつろ」の集合体であることをたしかに認識しているのが明らかになる。下五は「や」の係り結びの連体形止め「刻みをる」にしてもいいところだが、それでは安定しすぎてスピードが鈍る。「刻みをり」として、かろやかに速度をあげて刻みつづけたいのだ。

  • 認知機能検査過去問ネットに夏
    戸田典々

    認知機能検査は運転免許証を更新する後期高齢者が受けなければならない検査。その過去問がネットに上げられているのを知った。「夏」という季節が選ばれているので、やる気まんまん。過去問を繰り返し練習して臨めば、検査当日は「認知症のおそれがない方」の判定が出よう。

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