澤俳句会web

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4月号/小澤實十五句

  • 欠 席 投 句

    常に汝は欠席投句花の夜も

    鮒の口ちかづきにけり孑孑吸ふ

    団地の扉押せば重たき残暑かな

    裸足にて胡坐くみたり帰り来て

    ひぐらしや切抜は著者死亡記事

    ひぐらしの鳴きかはすなり雨中にも

    蜩の骸脚も完璧ひとつひろふ

  • 缶ビール飲む四つ手の小屋に着くやいなや

    電動に揚げ四つ手網秋夕焼

    鷺どもの帰り小島や秋夕焼

    網あぐれば稚魚かがやけり秋の風

    ままかりの稚魚群さつとかき揚げに

    四つ手網の烏賊掬ふ網柄の長し

    四つ手網に得しべいかなり即刺身

    芒の穂に顔打たれたり野を行けば

4月号/澤四十句/小澤實選

  • 初刷やポストの下に籠を置き
    鶴見澄子
    跳び箱を跳ぶ練習よ布団積み
    鍋山紀子
    図書室に大きなくしやみどきつとす
    有野志げ子
    わたしの代りにと湯たんぽ贈らるる
    嶋田恵一
    宇多津神社芸者揃うて豆撒きぬ
    篠田洋子
    もうそろそろ許してやるかおでん煮て
    結城あき
    「ひまわりを描くゴッホ」描くゴーギャンやパレット冱つ
    周藤迪之相
    彼岸の夫に御慶述べたり起きてまづ
    野口桐花
    羽二重餠に透くる漉餡春兆す
    弓緒
    塀の壁剝がれぬ枯蔦引きたれば
    生井敏夫
    睡眠時無呼吸防止機器装着の我去年今年
    菱田嘉春
    汝嗅げる白梅の枝吾も嗅ぎぬ
    森美代子
    短日のドアフォン「宅急便です」「どちらから」
    長谷川照子
    恋かもしれぬ雨後の落葉を裏がへす
    南 幸佑
    かつこかつこと削る鰹節春隣
    兒玉猫只
    入試作問会議問二に二時間半
    大堀 柔
    タイヤ引き走る野球部雪けむり
    山下希記
    御降に白寿の白髪きらめけり
    村戸弥生
    電気料金メーターに巣食ふ冬蜂退治せる
    上林七菓
    猪猟や屠りし日時胴に書く
    金澤諒和
  • 九九をがんばると賀状に太く濃く
    馬場尚美
    糸切れに逃す鮃や座布団大
    左官屋宇兵衛
    浮標燈いまだ点燈初茜
    蘆立角翠
    米三合に太巻五本節分来
    丸田紫苑
    剪定の鋏よぐつと押し切れよ
    吉村たまみ
    バナナ型バナナ携帯容器春
    中井亜由
    青ぬたで飲るのが好きで泣き上戸
    塚田見太
    ラガー立つ表彰台や杖つきて
    松井宏文
    女義太夫の人力車追ふ虚子冬うらら
    根岸哲也
    牡蠣飯や弁当の蓋持ちあがる
    青沼まみ
    シロナガス鯨解体胎児出づ
    福原桂子
    振り出し丁稚上がり長者や絵双六
    児玉史湖
    アリゾナ記念館に無言の父や開戦日
    川邊 満
    嚏一つにお漏らし少々ひた隠し
    山田渥子
    一村の遊印「餓駆我」冬の蝶
    吉田邦幸
    冬の日に美浜原発アルミ照り
    鳳 佳子
    マスクかけ帽子目深や夫眠る
    長澤庸子
    呆けかかる夫と散歩す淡き春
    遠藤陽子
    バレンタインデーに書くファンレターチョコはなし
    鈴木桃子
    冬の夜を生きとうと問う生きとうと応う
    中原まり子

4月号/選後独言/小澤實・細やかな交流を示す「もの」

  • 初刷やポストの下に籠を置き
    鶴見澄子

    初刷は、元旦に届く新聞である。いつもより数倍厚い。
    今年も初刷が届いていることだなあ、ポストの下に籠を置いてあったが、そこで受け取ったことだよ。
    初刷が厚くて、郵便物を受け取るポストには入らないのがわかっているので、下にそのための籠を用意している。そして、新聞配達人もその籠の意図を理解していて、その籠に入れていく。もう何年もそうやって受け取ってきたのだろう。最初は年内にその籠の意図を新聞配達人に伝えたことがあったのかもしれない。籠ひとつから新聞配達人との細やかな交流が想像できるのだ。

  • 跳び箱を跳ぶ練習よ布団積み
    鍋山紀子

    跳び箱を跳ぶ練習をしていることだよ、布団を積み上げて。
    跳び箱の苦手なこどもが跳び箱を跳ぶ練習をしているわけだが、家で布団を積んでそれを跳び箱代わりにしているところにほほえまされる。柔らかな掛け布団では無理そうだが、敷き布団を畳んで重ねれば、たしかに跳び箱状になり練習もできそうだ。これを利用して自宅で練習を重ねれば、家の中で助走は短いながらも、すぐにうまくなるだろう。
    布団は眠る際に寒さを防ぐものというのが本意で、そこからは外れる。ただ、この子は起きてすぐ布団を畳み、練習をしていると読むのが自然か。本意が、ぎりぎりのところで生かされているのだ。
    「跳び箱を跳ぶ」と「跳」の同じ字を重ねているのもいい。この子の愚直な感じが、この用字によって表現されているような気もする。

  • 図書室に大きなくしやみどきつとす
    有野志げ子

    図書室で誰かが突然大きなくしゃみをして、それに驚いているわけだ。
    背景には、あまり混んでいない、静かな図書室がある。暖房もあまり効いていないだろう。高校の図書室を思い出して見た。「どきつとす」という、生な表現がいい。くしゃみを放ったものとの距離もかなり近いのだろう。たしかにいつかこんな瞬間を経験したことがあったような気がする。こんなことも俳句になるのか、と思わせる一句である。

  • わたしの代りにと湯たんぽ贈らるる
    嶋田恵一

    わたしの代りにして使ってほしいと、湯たんぽを贈られる。
    贈り物として、湯たんぽを選ぶというのは、珍しい。ユーモラスな感じもある。そして、渡された際に「この湯たんぽをわたしの代わりにしてください」と言われたというのだ。本来ならわたしがあなたと共寝して、あなたをあたためたいが、今はそれができない、それで代わりにと贈られていることになっている。この湯たんぽはかなり重い意味をもっていることになる。そして、この句の作中主体はたしかにこの湯たんぽを受け取っている。

  • 彼岸の夫に御慶述べたり起きてまづ
    野口桐花

    「彼岸の夫」は逝去されている夫、「御慶」は新年の挨拶。
    すでに現世にはおらず彼の岸に至っている夫に新年の挨拶を述べた、起きてからまず。
    元日、目覚めて、まずすることは、亡き夫に対して新年の挨拶をすることである、というのだ。自然であり、彼岸との距離がたいへん短く感じられる。まるで、この同じ部屋にいるかのような近さだ。

  • 恋かもしれぬ雨後の落葉を裏がへす
    南 幸佑

    感情の昂ぶりを「恋かもしれぬ」と感じている、そして、雨の後に地に張り付いた落葉を裏返している。
    「恋かもしれぬ」と感じても、まだその相手に行動を移すことはしないのであろう。自分の気持を確かめるように、雨後張り付いている落葉を裏返しているのだが、裏返しても何が現れるわけでもない。感情と行為とが響き合う。
    明るくはない微妙な感情の動きと誠実に向き合っていると言わざるをえない。

  • かつこかつこと削る鰹節春隣
    兒玉猫只

    かっこかっこと音を立てて鰹節を削る、いつか春が近づいて来ている季節である。
    「かつこかつこ」という音に魅力があった。この音から、
    調理のさまざまな音や匂い、だしの味わいまで連想されて来る。「春隣」という次を期待する季語が、まことに適切であった。

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